さまようまちのさまよういえのさまようひとびと
さまよう町のさまよう家のさまよう人々

冒頭文

一 夜にはあらじ霧ふかき昼なりき町は霧にて埋(うず)もれたり霧町に降り降りたる霧町を埋めたり日はあれど月より朧(おぼ)ろにて家あれど墓より陰影的なりき葬礼の列なりやそこに、ここに、行く者は?あらじ歩める人の群なりき昼の鐘遠くきこえ夜の鐘に似たれどもただ似たるなり霧ふかき町なれば鐘の音迷えるなり玩具屋ありき会堂ありき塔ありき円天上の大学ありき霧の奥にありき堀割よなぜに短艇(ボート)を浮かべざるや?

文字遣い

新字新仮名

初出

「探偵」1931(昭和6)年7月~11月

底本

  • 国枝史郎探偵小説全集 全一巻
  • 作品社
  • 2005(平成17)年9月15日