おんしつのこい
温室の恋

冒頭文

一 中央線木曾福島! ただ斯(こ)う口の中で云っただけでも私の心は踊り立つ。それほど私は其(その)町を——見捨てられたような其町を限り無く好いているのであった。人情、風俗、山川の姿……福島の町の一切の物が私には愛らしく好ましい。 とは云え、私は、二度と再びその町を訪ねようとは思わない。何んと矛盾した考えでは無いか! 併し私が其町で親しく経験した不思議な事件の恋物語を聴かれ

文字遣い

新字新仮名

初出

「ポケット」1924(大正13)年3月

底本

  • 国枝史郎探偵小説全集 全一巻
  • 作品社
  • 2005(平成17)年9月15日