ちゅうしゆうき
中支遊記

冒頭文

上海にて 仲秋まる一ヵ月の旅であった。六十有余年のこの年まで十日以上にわたる旅行はしたことのない私にとって、よく思いたったものと思う。流石にまだ船に乗っているような疲れが身体の底に残っている。頭を掠める旅の印象を追っていると、なお支那に遊んでいるのか、京都に帰っているのか錯綜として、不思議な気持を払いきれない。 昨日の新聞に米船ハリソン号を浅瀬に追いつめて拿捕(だほ)に協力したと輝

文字遣い

新字新仮名

初出

「画房随筆」錦城出版社、1942(昭和17)年12月

底本

  • 青眉抄・青眉抄拾遺
  • 講談社
  • 1976(昭和51)年11月10日