きょうのそのころ
京のその頃

冒頭文

私は京の四条通りの、今、万養軒という洋食屋になってるところにあった家で生まれた。今でこそあの辺は京の真中になって賑やかなものだが、ようやく物心ついた頃のあの辺を思い出すと、ほとんど見当もつかない程の変りようだ。 東洞院と高倉との間、今取引所のあるところ、あすこは薩摩屋敷と言ったが、御維新の鉄砲焼の後、表通りには家が建て詰っても裏手はまだその儘で、私の八つ九つ頃はあの辺は芒の生えた原ッぱだ

文字遣い

新字新仮名

初出

「塔影」1935(昭和10)年1月

底本

  • 青眉抄・青眉抄拾遺
  • 講談社
  • 1976(昭和51)年11月10日