こさかいふぼくしスケッチ
小酒井不木氏スケッチ

冒頭文

一 「高きに登って羅馬(ローマ)を俯瞰(みおろ)し、巨火に対して竪琴を弾じ、ホーマアを吟じた愛す可(べ)き暴王、ネロを日本へ招来し、思想界へ放火させようではないか。五百あまりの白骨が、塁々として現われようぞ。惜しい人間が幾人あろう? 一、二、三……」と指を折る。「あっ、不可(いけ)ない、十人とは無いや」斯(こ)ういうことを心の中で、往々考える傲慢な私も、小酒井不木氏の前へ出ると、穏(おとな)

文字遣い

新字新仮名

初出

「新青年」1926(大正15)年7月

底本

  • 国枝史郎探偵小説全集 全一巻
  • 作品社
  • 2005(平成17)年9月15日