もものでんせつ
桃の伝説

冒頭文

「桃・栗三年、柿八年、柚は九年の花盛り」といふ諺唄がある。実(ナ)りものゝ樹としては、桃は果実を結ぶのは早い方である。 一体、桃には、魔除け・悪気ばらひの力があるものと信ぜられて来てゐる。わが国古代にも、既に、此桃の神秘な力を利用した話がある。黄泉の国に愛妻を見棄てゝ、遁れ帰られたいざなぎの命は、後から追ひすがる黄泉醜女(ヨモツシコメ)をはらふ為に、桃の実を三つとりちぎつて、待ち受けて、投げつけ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「愛国婦人 第四九一号」1923(大正12)年3月

底本

  • 折口信夫全集 3
  • 中央公論社
  • 1995(平成7)年4月10日