きつねのいなかわたらい
狐の田舎わたらひ

冒頭文

藤の森が男で、稲荷が女であると言ふ事は、よく聞いた話である。後の社の鑰(カギ)取りとも、奏者とも言ふべき狐を、命婦と言うたことも、神にあやかつての性的称呼と見るべきで、後三条の延久三年、雌雄両狐に命婦の名を授けられたなど言ふ話は、こじつけとは言へ、あまりに不細工な出来である。 今日の稲荷社では、なぜか、命婦を一社と考へたがる傾きが見える様だが、色葉字類抄に中鑰(ノ)宮鑰(ノ)命婦とあるのは、上下

文字遣い

新字旧仮名

初出

「土俗と伝説 第一巻第三号」1918(大正7)年10月

底本

  • 折口信夫全集 3
  • 中央公論社
  • 1995(平成7)年4月10日