いなむらのかげにて
稲むらの蔭にて

冒頭文

河内瓢箪山へ辻占問ひに往く人は、堤の下や稲むらの蔭に潜んで、道行く人の言ひ棄てる言草に籠る、百千の言霊(コトダマ)を読まうとする。人を待ち構へ、遣り過し、或は立ち聴くに恰好な、木立ちや土手の無い平野に散在する稲むらの蔭は、限り無き歴史の視野を、我等の前に開いてくれる。此田畑の畔に立つ稲むらの組み方や大小形状については、地方々々で尠からず相違があるらしいが、此と同時に、此物を呼ぶ名称も亦、至つてまち

文字遣い

新字旧仮名

初出

「郷土研究 第四巻第三号」1916(大正5)年6月

底本

  • 折口信夫全集 3
  • 中央公論社
  • 1995(平成7)年4月10日