うつす |
うつす |
冒頭文
インドの王様が——たいていの物語はこれで始まる——二人の画家に壁画を描かしめた。その壁は相面した二つの巌壁である。ようやく期日が迫るにあたって、一人の画家は彩色美しく極楽の壮厳を描きあげていった。しかるに他の一人の画家はいっこう筆を取らない。ただ巌壁を磨いて絵の下地をのみ造っている。ついにかくして、その日はきた。王様は大きな期待をもって巌壁を訪れた。一方の壁は七宝の樹林、八功の徳水、金銀、瑠璃、玻
文字遣い
新字新仮名
初出
「光画」1932(昭和7)年7月号
底本
- 中井正一全集 第三巻 現代芸術の空間
- 美術出版社
- 1981(昭和56)年5月25日