かいがのふあん
絵画の不安

冒頭文

真に在るものは不安の上にある、というハイデッガーの考えかたには何ものか深いものがある。存在して、しかも存在のさながらの姿より隔てられているという嘆き。存在のふるさとに還りたきのぞみ。それがわれわれの「今」であり、「ここ」であり、「自分」の露(あら)わな現(うつ)つである、と彼はいう。 その意味で、真の自分の姿は永遠なる「問い」の上にある。 言葉の上に、光の上に、音の上に、人は問

文字遣い

新字新仮名

初出

「美」1930(昭和5)年7月号

底本

  • 中井正一評論集
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1995(平成7)年6月16日