とかいのなかのことう
都会の中の孤島

冒頭文

アナタハン島の悲劇はむろん戦争がなければ起らなかった。第一たがいに顔を知り合うこともなく、それぞれが相互に無関係の一生を送ったであろう。 しかし、アナタハンのような事件そのものは、戦争がなければ起り得ない性質のものではない。 一人の女をめぐって殺し合うのは、山奥の飯場のようなアナタハンに外見の似た土地柄でなくとも、都会の中でもザラにありうることだ。 アナタハンには法律

文字遣い

新字新仮名

初出

「小説新潮 第七巻第四号」1953(昭和28)年3月1日

底本

  • 坂口安吾全集 13
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年2月20日