うし

冒頭文

ふと校庭を眺めると、例の学生がまた走っていた。 「あのバカはつい今しがたぶッ倒れたのを見たはずだが……」 思わずカタズをのんで眺めたと云っては大ゲサかも知れないが、幻を見たかと思ったのである。 つい今しがた——それはたぶん十分もたたないような気がするが、その学生はラストスパートをかけて百五十メートルぐらい全身の力をふりしぼって走った。そのあげくゴールの地点を一足こしたとたんに

文字遣い

新字新仮名

初出

「文藝春秋 第三一巻第五号」1953(昭和28)年4月1日

底本

  • 坂口安吾全集 13
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年2月20日