あんごじんせいあんない 03 そのさん せいしんびょうしんだんしょ
安吾人生案内 03 その三 精神病診断書

冒頭文

妻を忘れた夫の話  山口静江(廿四歳) 『これが僕のワイフか? 違うなア』行方不明になって以来三ヶ月ぶりでやっと三鷹町井ノ頭病院の一室に尋ねあてた夫は取り縋ろうとする私をはね返すように冷く見据えて言い切るのでした。いくら記憶喪失中の気の毒な夫の言葉とはいえ余りの悲しさに、無心に笑っている生後五ヶ月の長女千恵子を抱いて思わずワッと泣き伏してしまいました。思い起せば四月廿三日何気なく某紙夕刊

文字遣い

新字新仮名

初出

「オール読物 第六巻第七号」1951(昭和26)年7月1日

底本

  • 坂口安吾全集 11
  • 筑摩書房
  • 1998(平成10)年12月20日