あんごのしんにほんちり 04 あすかのまぼろし――よしの・やまとのまき――
安吾の新日本地理 04 飛鳥の幻――吉野・大和の巻――

冒頭文

海を見たことがないという山奥の子供でも汽車や自動車は見なれているという文化交通時代であるが、紀伊半島を一周する汽車線はいまだに完成していない。また、紀州の南端から大台ヶ原を通って吉野へ現れるには、どうしても数日テクる以外に手がないのである。吉野の入口から自動車にのると上の千本までしか登れない。奥の千本へ行くにもテクらなければダメなんだから、大峰山や大台ヶ原は今もって鏡花先生の高野聖時代さ。交通文明

文字遣い

新字新仮名

初出

「文藝春秋 第二九巻第八号」1951(昭和26)年6月1日

底本

  • 坂口安吾全集 11
  • 筑摩書房
  • 1998(平成10)年12月20日