けんじゅつのごくいをかたる
剣術の極意を語る

冒頭文

僕は剣術を全然知らない。生れて以来、竹刀(しない)を手に持つたことがたつた一度しかないのである。 中学の時、剣術と柔道とゞちらか選んで習ふ必要があつたが、僕は柔道を選んだ。人にポカ〳〵頭を殴られるのは気がすゝまなかつたのだ。ところが後になつて、学校の規則が変つて、剣道も柔道もどつちも正科になつて一時間づゝ習ふことになつた。その第一時間目、型をちよつと教へたあとで、いきなり一同に試合させら

文字遣い

新字旧仮名

初出

「現代文学 第五巻第一一号」大観堂、1942(昭和17)年10月28日

底本

  • 坂口安吾全集 03
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年3月20日