おおいひろすけというおとこ ――ならびにちゅうもんひとつのこと――
大井広介といふ男 ――並びに註文ひとつの事――

冒頭文

大井広介に始めて会つたのは昭和十五年大晦日午後七時、葉書で打合せて雷門で出会つた。その晩、大井広介は至極大真面目で、自分はインチキ・レビューの愛好家で、女性美はレビューの動きに極致があると信じてゐるから、自分の娘もレビューガールにするつもりである。三つの頃からレビューを見せて仕込んでゐるが、足が長くレビューガール向きの身体のくせに、生れつき踊りの才能がなくて閉口してゐる、とこぼした。酔つ払つてゐた

文字遣い

新字旧仮名

初出

「現代文学 第五巻第八号」大観堂、1942(昭和17)年7月28日

底本

  • 坂口安吾全集 03
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年3月20日