ただのぶんがく
たゞの文学

冒頭文

歴史文学とはどういふものだか、さて、改めて考へてみたら、僕は今まで、さういふことに就て一向に考へてみたことがなかつたことに気がついた。歴史に取材した小説を書いたことはあつたけれども、その時でも、特に歴史文学といふ特別な意識で多少でも頭を悩した覚えが一向にない。「イノチガケ」を書いて小林秀雄の所へ持つて行つたら、彼は読みかけの「源氏物語」を閉ぢて「君、歴史小説を書くのは面白いかい?」ときいた。僕はま

文字遣い

新字旧仮名

初出

「現代文学 第五巻第二号」大観堂、1942(昭和17)年1月31日

底本

  • 坂口安吾全集 03
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年3月20日