こと
古都

冒頭文

一 京都に住もうと思つたのは、京都といふ町に特に意味があるためではなかつた。東京にゐることが、たゞ、やりきれなくなつたのだ。住みなれた下宿の一室にゐることも厭で、鵜殿(うどの)新一の家へ書きかけの小説を持込み、そこで仕事をつゞけたりしてゐた。京都へ行かうと思つたのは、鵜殿の家で、ふと手を休めて、物思ひに耽つた時であつた。 「いつ行く?」 「すぐ、これから」 鵜殿はトランクを探し

文字遣い

新字旧仮名

初出

「現代文学 第五巻第一号」大観堂、1941(昭和16)年12月28日

底本

  • 坂口安吾全集 03
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年3月20日