なみこ
波子

冒頭文

一 「死花」といふ言葉がある。美しい日本語のひとつである。伝蔵自身が、さう言ふ。さうして、伝蔵が、死花を咲かせるなどと言ひだしたのは、波子の嫁入り話と前後してゐた。 五十をいくつも越してゐない年であるから、まだ、死花には早やすぎる。けれども、芝居もどきの表現が好きな父で、その一生も芝居もどきでかためてきたから、うつかり冗談だと思つてゐると、いつ、何をやりだすか分らない。けれども、波子は、ば

文字遣い

新字旧仮名

初出

「現代文学 第四巻第七号」大観堂、1941(昭和16)年8月28日

底本

  • 坂口安吾全集 03
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年3月20日