ふうじんろく
風人録

冒頭文

一 有りうべからざる奇怪のこと この世には、とても有り得まいと思はれることが、往々有りうるのである。しかも奇妙なことには、さういふ事に限つて、さて実際行はれてみると、人々になんの注意も惹かず、不思議な思ひすら与へず、有耶無耶のうちに足跡もなく通過してしまふ。 先年、ある男が鉄道自殺をしようとして、驀進してきた貨物列車に向つて、走幅飛の要領で、猛烈なスピードをつけて飛びこんだ。これに

文字遣い

新字旧仮名

初出

「現代文学 第三巻第一〇号」大観堂、1940(昭和15)年11月30日

底本

  • 坂口安吾全集 03
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年3月20日