もじとそくりょくとぶんがく
文字と速力と文学

冒頭文

私はいつか眼鏡をこはしたことがあつた。生憎眼鏡を買ふ金がなかつたのに、机に向かはなければならない仕事があつた。 顔を紙のすぐ近くまで下げて行くと、成程書いた文字は見える。又、その上下左右の一団の文字だけは、そこだけ望遠鏡の中のやうに確かに見えるのである。けれどもさういふ状態では小説を書くことができない。さういふ人の不自由さを痛感させられたのであつた。 つまり私は永年の習慣によつ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文芸情報 第六巻第一〇号」1940(昭和15)年5月20日

底本

  • 坂口安吾全集 03
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年3月20日