しのざさのかげのかお
篠笹の陰の顔

冒頭文

神田のアテネ・フランセといふ所で仏蘭西語を習つてゐるとき、十年以上昔であるが、高木といふ語学の達者な男を知つた。 同じ組に詩人の菱山修三がゐて、これは間もなく横浜税関の検閲係になつて仏蘭西語を日々の友にしてゐたが、同じ語学が達者なのでも高木は又別で、秀才達が文法をねぢふせたり、習慣の相違や単語を一々克明に退治して苦闘のあとをとどめてゐるのに、高木にはその障壁がなくて、子供が母国語を身につ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「若草 第一六巻第四号」1940(昭和15)年4月1日

底本

  • 坂口安吾全集 03
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年3月20日