だいごのさと
醍醐の里

冒頭文

三年ほど前の早春、自分が京都に住むことになつてものの二週間とたたないうちに、突然小田嶽夫君が訪ねてくれた。 小田君は上海(シャンハイ)旅行の途中で、京都は始めてだと言つてゐたが、自分を訪ねる前に見物してきたばかりの醍醐寺に、よほど感心したらしく、早速ポケットから絵葉書をとりだして説明しはじめたが、僕も京都は当時まつたく不案内で、醍醐といふ地名も醍醐寺といふ存在も、その時はじめて知つたので

文字遣い

新字旧仮名

初出

「若草 第一五巻第一〇号」1939(昭和14)年10月1日

底本

  • 坂口安吾全集 03
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年3月20日