きぎのせい、たにのせい
木々の精、谷の精

冒頭文

一 修吉が北越山中の秋山家を訪ねたとき、恰(あたか)もそれを見るために遥々(はるばる)やつてきたやうに、まづ仏像のことを尋ねた。 仏像は弥勒だといふ話であつた。観音に似た女性的な柔和な相をし、半跏(はんか)して、右手で軽く頬杖をついて静思とも安息ともうけとれるやうな姿をしたあの像である。この弥勒像の柔和な顔にきざまれた不思議な微笑に就いて、かねて友達の野沢から屡々(しばしば)話をきいてゐたの

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文芸 第七巻第三号」1939(昭和14)年3月1日

底本

  • 坂口安吾全集 03
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年3月20日