にしひがし
西東

冒頭文

路上で煙次郎(えんじろう)と草吉(くさきち)が出会つた。草吉は浮かない顔付であつた。 「どうした? 顔色が悪いな。胃病か女か借金か?」 「数々の煩悶が胸にあつてね、黙つてゐると胸につかへて自殺の発作にかられるのだ。誰かをつかまへて喋りまくらうと思つてゐたが、君に出会つたのは、けだし天祐だな」 「いやなことになつたな」 「十日前の話だが、役所からの帰るさ図らずも霊感の宿るところとなつて、

文字遣い

新字旧仮名

初出

「若草 第一一巻第一〇号」1935(昭和10)年10月1日

底本

  • 坂口安吾全集 01
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年5月20日