こたんのふうかくをはいす
枯淡の風格を排す

冒頭文

「枯淡の風格」とか「さび」といふものを私は認めることができない。これは要するに全く逃避的な態度であつて、この態度が成り立つ反面には人間の本道が肉や慾や死生の葛藤の中にあり、人は常住この葛藤にまきこまれて悩み苦しんでゐることを示してゐる。ところが「枯淡なる風格」とか「さび」とかの人生に向ふ態度は、この肉や慾の葛藤をそのまま肯定し、ちつとも作為は加へずに、しかも自身はそこから傷や痛みを受けない、といふ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「作品 第六巻第五号」1935(昭和10)年5月1日

底本

  • 坂口安吾全集 01
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年5月20日