てんさいになりそこなったおとこのはなし
天才になりそこなつた男の話

冒頭文

東洋大学の学生だつたころ、丁度学年試験の最中であつたが、校門の前で電車から降りたところを自動車にはねとばされたことがあつた。相当に運動神経が発達してゐるから、二三間空中に舞ひあがり途中一回転のもんどりを打つて落下したが、それでも左頭部をコンクリートへ叩きつけた。頭蓋骨に亀裂がはいつて爾来二ヶ年水薬を飲みつゞけたが、当座は廃人になるんぢやないかと悩みつゞけて憂鬱であつた。 こんな話をきくと

文字遣い

新字旧仮名

初出

「東洋大学新聞 第一二〇号」東洋大学新聞学会、1935(昭和10)年2月12日

底本

  • 坂口安吾全集 01
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年5月20日