いんじゃやまへのりこむ
淫者山へ乗りこむ

冒頭文

その娘の父は独力相当の地位と富を築きあげた実業家でありました。外見は豪放磊落にみえるが実際は至つて気の小さな善人だつたのです。一見豪放の裏側では細かいことに気がつきすぎたり拘泥しすぎたりして結局大きいことができないたちの、相当のところまでは漕ぎつけるが一流の大立物にはなれないやうな人でありました。 娘に結婚の話がきまり相手の青年も選ばれてみると、この善良な父親は娘の許嫁(いいなずけ)にあ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「作品 第六巻第一号」1935(昭和10)年1月1日

底本

  • 坂口安吾全集 01
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年5月20日