むだい
無題

冒頭文

K君。 御便り越中魚津の貧乏寺にて拝読。当所は旧友の今は行ひすました草庵であります。八月一杯滞在。九月にこの坊主の紹介で黒部山中の酒造家へ草鞋(わらじ)をぬぐ予定です。頃しも酒のなんとやらいふ季節でありますが、さういへば流浪の餞別にと君から貰つた酒盃、君の店で最も高価な珍器といふ御自讃であつたが、坊主の意見によれば名古屋製のまがひ物の由、黒部山中の清酒にはちと向きかねるといふ辛辣な眼識で

文字遣い

新字旧仮名

初出

「紀元 第二巻第九号」1934(昭和9)年9月1日

底本

  • 坂口安吾全集 01
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年5月20日