なつとにんぎょう
夏と人形

冒頭文

貴方は南国の傀儡(くぐつ)を御存じですか? (と物識りの旅行家が私に話してきかせました) 文楽の舞台に比べては余り原始的でみすぼらしいものの、まことの名人気質と名も知られない人形造りが一心こめて残した霊妙な人形はむしろ棄てられた傀儡師に伝へられてゐるのです。 七年前のことです。四国の淋しい路傍で最も神秘な傀儡師を見ました。至妙な演戯よ! 私の心は涯もない夢幻の奥へ誘はれてゐたのです。け

文字遣い

新字旧仮名

初出

「レツェンゾ 七月号」紀伊国屋書店、1934(昭和9)年7月1日

底本

  • 坂口安吾全集 01
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年5月20日