たのしいゆめのなかにて
愉しい夢の中にて

冒頭文

昨夜、ちやうど河田の夢を見た。 私は見知らない藁屋根のある農家の庭をぶら〴〵してゐた。旅先であつたらしい。ひどい旅愁に苦しめられてゐたのである。どつちを眺めていいのか分らなかつたり、どの見知らない方角を眺めることも苦しかつたり怖ろしかつたり、身体が蒼白く痩せてしまひさうな心細い旅愁であつた。すると、暗い樹木の中から、まつさをな死の顔をした人間が黙つて私に近づいてきた。見ると死んだ河田であ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「桜 第二巻第三号」近藤書店、1934(昭和9)年4月1日

底本

  • 坂口安吾全集 01
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年5月20日