たにたんさんのしずかなしょうせつ ――あわせて・じんせいはかんびであるというはなし――
谷丹三の静かな小説 ――あはせて・人生は甘美であるといふ話――

冒頭文

私は祖国日本にいささか退屈を感じてゐる。とはいへ、日本人であることを如何ともなしがたい私にとつて、これは憂鬱な出来事である。いはば、私は私自身に退屈してゐるに違ひないといふ因果なふしあはせを自白しなければならないのである。 私はシニスムがきらひである。 人に自慰的な優越を与へる点に於てはシニスムほど強力なものはないかもしれない。シニスムを生活の武器とする限りは、人はかなり堅固な

文字遣い

新字旧仮名

初出

「三田文学 第九巻第三号」三田文学会、1934(昭和9)年3月1日

底本

  • 坂口安吾全集 01
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年5月20日