ぐんしゅうのひと
群集の人

冒頭文

雑沓の街は結局地上で一番静寂な場所であるかも知れない。斑猫蕪作(はんみょうぶさく)先生は時々恁(こ)んな風に思ひつかれることもあつたが、兎に角斑猫先生はアッサリと銀座裏のアパアトへ引越してきた。行方杳として知れず——つまり斑猫先生は風のやうに消息を断つて、ひそかに雑沓の街へ隠遁したわけであつた。これで清々したと先生は考へた。 先生は独身で通したので、もともと一人ぽつちであつた。特殊な団欒

文字遣い

新字旧仮名

初出

「若草 第八巻第四号」1932(昭和7)年4月1日

底本

  • 坂口安吾全集 01
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年5月20日