たけやぶのいえ
竹藪の家

冒頭文

一 ——首縊つて死んぢまへ! お前が、さう言つたんぢやないか。早く首縊れつたら。莫迦莫迦莫迦ア! なぜ早く首縊らないのだ—— 家の裏手には一面に、はや年を経た孟宗(もうそう)のひつそりとした林が深い。朝朝の陽射しが水泡(みなわ)のやうにキラキラと濡れて、深い奥にもまばらに零(こぼ)れ、葉が落ちて濡れてふやけた篁(たけむら)の土肌から、いきれた臭気がムウンと顔に噎せながら其処ら一面に澱ん

文字遣い

新字旧仮名

初出

一~六「文科 第一~第四輯」春陽堂、1931(昭和6)年10月1日~1932(昭和7)年3月3日、七~九「黒谷村」1935(昭和10)年6月25日

底本

  • 坂口安吾全集 01
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年5月20日