にじはかせのはいたい
霓博士の廃頽

冒頭文

1 星のキラキラとした夜更けのことで、大通りの睡り耽つたプラタナの陰には最早すつかり濡れてしまつた街燈が、硝子の箱にタラタラと綺麗な滴を流してゐたが、——シルクハットを阿弥陀に被り僕の腕に縋り乍らフラフラと千鳥足で泳いでゐた霓博士は、突然物凄い顔をして僕を邪慳に突き飛ばした。 「お前はもう帰れ!」 「しかし、だつて、先生はうまく歩けないぢやありませんか——」 「帰らんと、落第さ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「作品 第二巻第一〇号」1931(昭和6)年10月1日

底本

  • 坂口安吾全集 01
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年5月20日