ふるさとによするさんか ゆめのそうりょうはくうきであった
ふるさとに寄する讃歌 夢の総量は空気であつた

冒頭文

私は蒼空を見た。蒼空は私に泌(し)みた。私は瑠璃色の波に噎(むせ)ぶ。私は蒼空の中を泳いだ。そして私は、もはや透明な波でしかなかつた。私は磯の音を私の脊髄にきいた。単調なリズムは、其処から、鈍い蠕動を空へ撒いた。 私は窶(やつ)れてゐた。夏の太陽は狂暴な奔流で鋭く私を刺し貫いた。その度に私の身体は、だらしなく砂の中へ舞ひ落ちる靄のやうであつた。私は、私の持つ抵抗力を、もはや意識することが

文字遣い

新字旧仮名

初出

「青い馬 創刊号」岩波書店、1931(昭和6)年5月1日

底本

  • 坂口安吾全集 01
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年5月20日