こがらしのさかぐらから ――せいなるよっぱらいはかみがみのまのてにゆうわくされたはなし――
木枯の酒倉から ――聖なる酔つ払ひは神々の魔手に誘惑された話――

冒頭文

発端 木枯の荒れ狂ふ一日、僕は今度武蔵野に居を卜さうと、ただ一人村から村を歩いてゐたのです。物覚えの悪い僕は物の二時間とたたぬうちに其の朝発足した、とある停車場への戻り道を混がらがせてしまつたのですが、根が無神経な男ですから、ままよ、いい処が見つかつたらその瞬間から其処へ住んぢまへばいいんだ、住むのは身体だけで事足りる筈なんだからとさう決心をつけて、それからはもう滅茶苦茶に歩き出したんで

文字遣い

新字旧仮名

初出

「言葉 第二号」「言葉」発行所、1931(昭和6)年1月1日

底本

  • 坂口安吾全集 01
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年5月20日