ちゃばんによせて
茶番に寄せて

冒頭文

日本には傑れた道化芝居が殆んど公演されたためしがない。文学の方でも、井伏鱒二という特異な名作家が存在はするが、一般に、批評家も作家も、編輯者も読者も厳粛で、笑うことを好まぬという風がある。 僕はさきごろ文体編輯の北原武夫から、思いきった戯作を書いてみないかという提案を受けた。かねて僕は戯作を愛し、落語であれ漫才であれ、インチキ・レビュウの脚本でであれ、頼まれれば、白昼も芸術として堂々通用

文字遣い

新字新仮名

初出

「文体 第二巻第二号」1939(昭和14)年4月1日

底本

  • 坂口安吾選集 第一巻小説1
  • 講談社
  • 1982(昭和57)年7月12日