ちまんだらしちょうぶし |
血曼陀羅紙帳武士 |
冒頭文
腰の物拝見 「お武家お待ち」 という声が聞こえたので、伊東頼母(たのも)は足を止めた。ここは甲州街道の府中から、一里ほど離れた野原で、天保××年三月十六日の月が、朧(おぼ)ろに照らしていた。頼母は、江戸へ行くつもりで、街道筋を辿(たど)って来たのであったが、いつどこで道を間違えたものか、こんなところへ来てしまったのであった。声は林の中から来た。頼母はそっちへ眼をやった。林の中に、白い方形の
文字遣い
新字新仮名
初出
「冨士」講談社 1939(昭和14)年9月~12月中絶、「血煙天明陣」桃源社 1970(昭和45)年に付載して完結公刊
底本
- 血曼陀羅紙帳武士
- 国枝史郎伝奇文庫22、講談社
- 1976(昭和51)年6月12日