かじょうのいしき
過剰の意識

冒頭文

何年前であったか、親不知子不知のトンネルをでたころであった。前に座っていた胸を病んでいると思える青年が、突然 「ああ海はいい、海はいいなあ……」 といって、一直線にのびている黒い日本海の水平を、むさぼるように凝視しつついうのであった。そして前に座っている私をつかまえて、多くのことをいったが、 「単純な、静かな、この一直線はどうです好いですなあ。私は東京から体を悪くして故郷の山奥の

文字遣い

新字新仮名

初出

「シナリオ」1951(昭和26)年7月号

底本

  • 中井正一全集 第三巻 現代芸術の空間
  • 美術出版社
  • 1981(昭和56)年5月25日