たんていしょうせつのげいじゅつせい ――ぶんがくのメカニズム――
探偵小説の芸術性 ――文学のメカニズム――

冒頭文

ラテン語で書かれたすべての哲学書がいつでもイヴの犯した罪なしには書きはじめられなかったように、ドイツ語のあらゆる哲学書も歴史の末にあるという最後の審判なしにはその本を書き終ることができない。哲学の本はいつでもこの古い林檎の臭いがしている。 歴史は、いわば、罪より裁判へ、一つの犯罪的興味の上にある。パスカルの賭けはその裁判に賭けられた滲み透る賭けともいえよう。人の償いがたき罪、その罰を寂し

文字遣い

新字新仮名

初出

「美・批評」1930(昭和5)年5月号

底本

  • 中井正一評論集
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1995(平成7)年6月16日