むらいちょうあんないれのからかさ
村井長庵記名の傘

冒頭文

娘を売った血の出る金 今年の初雷の鳴った後をザーッと落して来た夕立の雨、袖を濡らして帰って来たのは村井長庵と義弟(おとうと)十兵衛、十兵衛の眼は泣き濡れている。 年貢の未進も納めねばならず、不義理の借金も嵩んでいる、背に腹は代えられぬ。小綺麗に生れたのが娘の因果、その娘のお種(たね)を連れ、駿州江尻在大平村から、義兄(あに)の長庵を手頼りにして、江戸へ出て来て今日で五日、義兄の口入

文字遣い

新字新仮名

初出

「ポケット」1925(大正14)年6月

底本

  • 国枝史郎伝奇全集 巻六
  • 未知谷
  • 1993(平成5)年9月30日