ごうすけほうし
郷介法師

冒頭文

1 初夏の夜は静かに明け放れた。 堺の豪商魚屋(ととや)利右衛門家では、先ず小僧が眼を覚ました。眠い眼を渋々こすりながら店へ行って門(かど)の戸を明けた。朝靄蒼く立ちこめていて戸外(そと)は仄々と薄暗かったが、見れば一本の磔(はりつけ)柱が気味の悪い十文字の形をして門の前に立っていた。 「あっ」と云うと小僧平吉は胴顫いをして立ち縮んだが、やがてバタバタと飛び返ると、 「磔柱

文字遣い

新字新仮名

初出

「ポケット」1925(大正14)年7月

底本

  • 国枝史郎伝奇全集 巻六
  • 未知谷
  • 1993(平成5)年9月30日