ちぬられたかいとう
血ぬられた懐刀

冒頭文

別るる恋 「相手の権勢に酔わされたか! ないしは美貌に魅せられたか! よくも某(それがし)を欺むかれたな!」 こう罵ったのは若い武士で、その名を北畠秋安(きたばたけあきやす)と云って、年は二十三であった。 罵られているのは若い娘で、名は萩野(はぎの)、十九歳であった。 罵られても萩野は黙っている。口を固く結んでいる。そうして足許を見詰めている。その態度には憎々しいほどの

文字遣い

新字新仮名

初出

「講談倶楽部」1928(昭和3)年8月

底本

  • 国枝史郎伝奇全集 巻五
  • 未知谷
  • 1993(平成5)年7月20日