きゅうどうちゅうそでん
弓道中祖伝

冒頭文

1 「宿をお求めではござらぬかな、もし宿をお求めなら、よい宿をお世話(せわ)いたしましょう」 こう云って声をかけたのは、六十歳ぐらいの老人で、眼の鋭い唇の薄い、頬のこけた顔を持っていた。それでいて不思議に品位があった。 「さよう宿を求めて居ります。よい宿がござらばお世話下され」 こう云って足を止めたのは、三十二三の若い武士で、旅装いに身をかためていた。くくり袴、武者草鞋(わらじ

文字遣い

新字新仮名

初出

「キング」1932(昭和7)年6月

底本

  • 国枝史郎伝奇全集 巻五
  • 未知谷
  • 1993(平成5)年7月20日