どうせんかいじへん
銅銭会事変

冒頭文

女から切り出された別れ話 天明六年のことであった。老中筆頭は田沼主殿頭(たぬまとのものかみ)、横暴をきわめたものであった。時世は全く廃頽期(はいたいき)に属し、下剋上の悪風潮が、あらゆる階級を毒していた。賄賂請託(わいろせいたく)が横行し、物価が非常に高かった。武士も町人も奢侈(おごり)に耽った。初鰹(はつがつお)一尾に一両を投じた。上野山下、浅草境内、両国広小路、芝の久保町、こういう盛り場

文字遣い

新字新仮名

初出

「週刊朝日 春季特別号」1926(大正15)年4月1日

底本

  • 銅銭会事変 短編
  • 国枝史郎伝奇文庫27、講談社
  • 1976(昭和51)年10月28日