さんじんない
三甚内

冒頭文

一 「御用! 御用! 神妙にしろ!」 捕り方衆の叫び声があっちからもこっちからも聞こえて来る。 森然(しん)と更けた霊岸島の万崎河岸の向こう側で提灯の火が飛び乱れる。 「抜いたぞ! 抜いたぞ! 用心しろ」 口々に呼び合う殺気立った声。ひとしきり提灯が集まって前後左右に揉み合ったのは賊を真ん中に取りこめたのであろう。しかし再びバラバラと流星のように散ったのは、取り逃がし

文字遣い

新字新仮名

初出

「ポケット」1925(大正14)年1月

底本

  • 銅銭会事変 短編
  • 国枝史郎伝奇文庫27、講談社
  • 1976(昭和51)年10月28日