オチフルイかいじゅうろうてがらばなし
十二神貝十郎手柄話

冒頭文

ままごと狂女        一 「うん、あの女があれなんだな」 大髻(たぶさ)に黒紋付き、袴なしの着流しにした、大兵の武士がこういうように云った。独り言のように云ったのであった。 そこは稲荷堀の往来で、向こうに田沼主殿頭(とのものかみ)の、宏大の下屋敷が立っていた。 「世上で評判の『ままごと女』のようで」 こう合槌を打つものがあった。旅姿をした僧侶であった。

文字遣い

新字新仮名

初出

「文芸倶楽部」1930(昭和5)年1月~6月

底本

  • 十二神貝十郎手柄話
  • 国枝史郎伝奇文庫17、講談社
  • 1976(昭和51)年9月12日