がこせんにん
鵞湖仙人

冒頭文

一 時は春、梅の盛り、所は信州諏訪湖畔。 そこに一軒の掛茶屋があった。 ヌッと這入って来た武士(さむらい)がある。野袴に深編笠、金銀こしらえの立派な大小、グイと鉄扇を握っている、足の配り、体のこなし、将しく武道では入神者。 「よい天気だな、茶を所望する」 トンと腰を置台へかけた。物やわらかい声の中に、凛として犯しがたい所がある。万事物腰鷹揚である。立派な身分に

文字遣い

新字新仮名

初出

「ポケット」1926(大正15)年3月

底本

  • 妖異全集
  • 桃源社
  • 1975(昭和50)年9月25日