せいしまんじどもえ
生死卍巴

冒頭文

占われたる運命は? 「お侍様え、お買いなすって。どうぞあなた様のご運命を」 こういう女の声のしたのは享保十五年六月中旬の、後夜(ごや)を過ごした頃であった。月が中空に輝いていたので、傍らに立っている旗本屋敷の、家根の甍(いらか)が光って見えた。土塀を食(は)み出して夕顔の花が、それこそ女の顔のように、白くぽっかりと浮いて見えるのが、凄艶の趣きを充分に添えた。 その夕顔の花の下に立

文字遣い

新字新仮名

初出

「雄弁」1928(昭和3)年9月~1929(昭和4)年8月

底本

  • 国枝史郎伝奇全集 巻四
  • 未知谷
  • 1993(平成5)年5月20日